上記の俳句の中の鍋物で、現代でもよく食べられているものは、河豚鍋くらいのものだろう。納豆汁、闇汁、狸汁などは現代的ではない。この時代で有名な牛鍋が少ないのも不思議。
珍しいものでは「夕顔汁」がある。
夕顔汁やがてみなより先に寝る 広江八重桜
かんぴょうの材料である夕顔の実を煮込んだものか。「やがてみなより先に寝る」で分かるように、鍋を囲んで長い時間、みんなと話でもしていたのだ。これは明らかに「鍋物」の句である。
「鮫汁」「鱈汁」もある。「鮫汁」は昆布が入っているのが鍋物風だ。「鱈汁」はお祭りの食べ物らしい。大勢が集まっているのだろう。
ともに「鍋物」とみなすべきだろう。
「俳句大歳時記」(角川書店)などには、桜鍋、牡丹鍋、鮟鱇鍋、石狩鍋、ジンギスカン鍋などが季語として載っているが、例に挙げてある句の作者はすべて明治以降の人だ。現代人の食する鍋物の多くは、明治以後に考え出されたようである。