金もないのに友達を連れて、芸者をあげ飲み食いしてのドンチャン騒ぎ。代金が払えないから、仲間が金を工面してくる間、ひとり居残りする事になる。といって、始めから計画的だから、この仲間、まず現れることはない。居残りは店の仕事を手伝わされた後、放免ということになる。
この男、その名も居残り左平次というぐらいだから、専ら居残り専門。居残りの身でありながらずうずうしいことこの上ない。
「夕べは少し飲み過ぎちゃったからな。そいつをお迎えってやつをやりたいんだが、こうちょいと一杯ほしいね。それから朝直しは湯豆腐ってえが何も湯豆腐と限ったことぁあない。蛎豆腐なんてぇのはちょいとおつなもんじゃあねぇか・・・」
左平次は、一緒に飲んだ仲間4人からあらかじめ1両ずつ出させ、しめて4両をお袋さんの生活費に持っていかせる周到さ。それに、この男、医者から転地療法を勧められていたらしく、品川を選んだのも「空気がいいから」。もとより長期戦覚悟だ。
湯豆腐は「付き馬」にも出てくる。飲み食いして勘定が足りなくなったとき、代金取立のためについてくる人を付き馬という。吉原でさんざん飲んだ男が付き馬を連れて、大門を出る。お金をこしらえるまでの間、朝湯に入る。そして・・・
「うん、湯豆腐でちょっと一杯飲もう。ちょいと姐さん、ああ、お銚子、うん、お鍋とね・・」
こうして湯豆腐で一杯やり、その代金まで付き馬に払わせる。この男も居残り左平次同様、金を払うつもりはもともとない。なんとかまいて逃げてしまおうというわけだ。
湯豆腐は文無しの朝食べる悲しい食べ物でもあるようだ。